『いつか、きっと見せてあげるね、お父さん』
そう言った娘は、もうここにはいない。
湖畔にぽつりと立つ屋敷に、人気戯曲家のオスカー・ウェブスターは暮らしていた。
オスカーは戯曲の執筆を手伝ってくれる自動手記人形を呼び寄せる。
現れたのは、オスカーが名前すら悲しくて囁けない「あの子」と同じ髪色の少女、
ヴァイオレット・エヴァーガーデンだった。
ヴァイオレットがやって来ても、オスカーは何かを紛らわすように酒を飲み続け、
仕事に向かおうとしない。
それには理由があった。
オスカーには自分の命よりも大切な娘がいた。
お気に入りの日傘を差して湖畔を歩く「あの子」の名前はオリビア。
『わたしもこの湖を渡ってみたい。あの落ち葉の上なら、歩けるかなぁ』
そう言って、オスカーに微笑む。
だが、幼い彼女は病に冒され天国へと旅立った。
ただ一人、オスカーを残して。
大切な人との別れがどれほどつらいことか。
ヴァイオレットはオスカーの深い悲しみに共感する。
オスカーはオリビアに生前聞かせてやった物語を、
子ども向けの戯曲として完成させようとしていた。
物語の終盤、主人公は日傘を使って湖を渡り、父の待つ家に帰らなくてはならない。
その情景が浮かばず、行き詰まるオスカー。
次の瞬間、オスカーの瞳にオリビアの日傘を持って湖に向かって跳躍するヴァイオレットが映る。
ブーツが水面の落ち葉に触れて、風の力でふわりと一瞬浮き上がる。
その姿に亡くなったオリビアを重ねるオスカー。
「死なないで、ほしかったなぁ…」
オスカーにはオリビアが微笑みかけたように見えた。
「君は死んだ娘の『いつかきっと』を叶えてくれた。
ありがとう。ヴァイオレット・エヴァーガーデン」
優しさに満ちた瞳で告げるオスカー。
だが、ヴァイオレットの瞳の奥には悲しみが宿っていた――。